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2008年 01月 23日
オルハン・パムク『雪』の読後、ずいぶん考え込んだ。頭の整理がつかなくて、なかなか彼の次作を手に取れずにいたけど、ようやく先日『わたしの名は紅(あか)』(以後『紅』と省略)を読み終えた。次作と言っても私が読んだ順番のことで、『紅』は『雪』の前に書かれた作品。底流にあるテーマはやはり、「東」と「西」の緊張感をはらむ関係ーー時に接近し、手を差し伸べながら、拒絶や絶望から対立を深めるというーーであり、パムクの一貫した問題関心がうかがえる。
もちろん、この2作品には大きな違いがある。まずは時代。『雪』はトルコの現代、『紅』はオスマントルコ帝国での16世紀末という設定である。舞台も、『雪』ではトルコの辺境の町であるのに対し、『紅』では華やかなる帝都イスタンブールが選ばれている。さらに、テーマが共通しているとはいえ、その描かれ方も両者では異なるように思う。 『紅』での東西の対立は、紅という色が目に飛び込んでくる際の印象そのままに、鮮明な形をとっている。対立が現れる場を「絵画の様式」という特殊な領域に限定したため、東西の対比は峻烈で分かりやすい。けれども、イタリアからやってきて徐々に世界を熱狂させる西側の芸術に飲み込まれるようにして、伝統的なトルコの細密画の手法が滅びゆく運命であることは、現在を生きる著者には既知の事実である。東西の対立の狭間で翻弄される16世紀オスマントルコは、現在を映し出す鏡の役割を果たしてはいるが、それは過ぎ去った時代なのだ。だからだろう。『紅』には、失われたものへの郷愁、一つの芸術が歴史から消えゆく瞬間の儚い美しさがある。結果として読後感は、『雪』のときのようなキリキリと胸を刺すようなものにはならなかった。 一方『雪』で見られる対立は、もっと入り組んでいる。東と西という枠組みに収まりきらない何通りもの対立軸が複雑にからみあう。例えば都市と辺境、信仰をもつ者と無神論者、宗教と政治、男と女、年長者と若者、富と貧困、体制と反体制・・・。何もかもを覆いつくす一面の雪が、これらの対立関係の上にもベールをかけ、複雑さをいっそう見えにくくしている印象がある。『雪』が物語の最初から最後まで張りつめた緊張感を失わないのは、もちろん舞台設定が現在進行形であることにもよる。それに加えて、そこで描かれる複雑に交差し合う対立関係が、すべて雪の白さの背後に隠されていることも、大きな原因であるように思う。 でどちらが優れているかといえば、なんとも言い難い。どちらが好きか、これも微妙なところ。ただちょっと、しょーもないことをつけ加えると、どうも私には作中の「美女」のイメージが作品そのもののイメージに影響を与えてしまう妙な傾向があるみたい。素晴らしい小説なのに、肝心な役どころを担わされた女性が薄っぺらで深みのない美人だったりするとガッカリ。著者の身勝手な理想を投影しただけかねーなんて白々しい気分になる。(その具体例でいつも思い出すのは大西巨人の『神聖喜劇』。)『雪』のイペッキは、ギリギリのところで薄っぺらな人間像から踏み出ているけど、実はどうも好きになれない。その点、『紅』のシェキュレの描き方は好ましい。男にとっての女であり、息子にとっての母であり、父にとっての娘であり、なにより逆境をしたたかに生き抜く、弱さも強さもあわせ持つ1人の人間であるシェキュレは魅力的だ。 美人にばかりアレコレ難癖つけるのは、なんだかヒガミっぽく聞こえるかもと思いつつ。
by jukali_k2
| 2008-01-23 21:42
| 本
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